特集
奈良市総合福祉センター
一転『閉鎖を撤回』
今後の在り方を再考へ・・・

 奈良市は障害者が利用する総合福祉センターを令和6年度末までに閉鎖する意向を固め、センターに通告していました。突然で一方的な閉鎖通告に対して存続を求める反対運動が広がり、2月末には約8000人の署名が提出され、仲川市長は閉鎖を撤回しました。市議会3月定例会では、総合福祉センターの今後の在り方について多くの質疑がありました。

【 市の突然の閉鎖通告 】

 総合福祉センターは、障害のある人たちの相談や訓練、リハビリの機能を併せ持つ福祉施設として1984年にオープンしました。多い時は年間10万人の利用がありましたが、市によると近年の利用は3万人程度となっており、センターの維持管理には年間約1億3000万円の費用がかかっています。
 施設の将来的なビジョンについて、市心身障害者・児福祉協会連合会、市社会福祉協議会、市の3者による「総合福祉センター在り方検討会」を設置し、計8回の協議を重ねている中で、市は突如として、かつ一方的に、建物の老朽化や経費削減を理由に、令和6年度末にセンターを閉鎖し、その機能を市内の4つの老人福祉センターに分散する方針を固めました。福祉総合相談窓口の設置や障害者の居場所づくり、老朽化のために休止している温水プールの修繕などについて協議をしている最中でした。
 この閉鎖案が浮上してから、関係団体から閉鎖の撤回を求める陳情書、更に請願書が市議会に提出される事態となり、市議会は「行財政改革及び公共施設等検討特別委員会」を設置して議論を重ねてきました。この中で、協議の最中に市が一方的に閉鎖計画を打ち出していることについて「市政運営の方針が決定されるプロセスに問題がある」との意見が相次ぎました。
総合福祉センター 老人福祉センター
(東・西・南・北福祉センター)
障害者理解のための各種啓発事業を実施することや障害のある人の社会参加の促進を図ること 目的 市内在住の60歳以上の高齢者の健康増進、教養の向上及びレクリエーションを行うこと
・市内在住の障害者児及びその介護を行う者
・社会福祉事業及び社会福祉活動の関係者
施設利用者 ・市内在住の60歳以上
・社会福祉事業関係団体など
・市内居住のおおむね3歳未満の乳幼児とその親
・市内在住のおおむね5歳未満の子どもとその家族

【 福祉避難所の整備に逆行 】

 総合福祉センターと、市が機能分散しようと計画した老人福祉センターは、いずれも災害時の「福祉避難所」として指定されており、高齢者や障害者など配慮が必要な「要配慮者」を受け入れる避難所になっていますが、それぞれ施設名のとおり、平常時の利用者や機能は異なっています。=表参照
 市が実施した総合防災訓練では、総合福祉センター、4つの老人福祉センターで、全ての要配慮者を受け入れるためには、設備面など施設として改善すべき点があることが明らかになっています。
 また、老人福祉センターと比較して規模の大きい総合福祉センターを活用した福祉避難所について、市は「施設面の課題はあるが、要配慮者を滞在させるために必要な居室が確保でき、かつ専門的な支援者がいる総合福祉センターは福祉避難所として一定の要件を満たしている」と説明しています。
 これらのことから、総合福祉センターは福祉避難所として望ましい施設であるものの、老朽化や設備面での改修に多額の費用が見込まれることから、市は閉鎖計画を打ち出したということになります。
 南海トラフ大地震を始め、いつ発生するか予測できない災害に備えて、要配慮者の避難を検討する責務がある中で、市議会では、総合福祉センターの6年度末での閉鎖は受け入れられるものではなく、福祉行政の抜本的な見直しを求める意見がありました。
◯福祉避難所
災害等発生時に一般の避難所では避難生活に支障が生じる要配慮者(高齢者や障害者、乳幼児などの特別な配慮を必要とする避難者)のために開設される避難所。一般の避難所などに避難した人の中で、要配慮者とされる避難者の状態や受け入れ施設の被害状況を踏まえ、施設と要配慮者とのマッチングを行い案内し移送する。原則、直接の避難をすることはできない。

市議会の意見

 市が総合福祉センターを廃止し、その機能を老人福祉センターに移転する案を示したことから、これらが一体的な問題として発展した。老人福祉センターを障害者、子どもや若者を始め、全ての人が利用できる施設に機能を変更することで、重層的支援体制整備事業の拠点づくりにつなげられる可能性がある。
 防災の観点からも、総合福祉センター、東西南北の4つの老人福祉センターの機能強化や防災時の役割、そして施設の改修などを総合的に検討していくべき。
 センターの問題は、公民館の統廃合問題と同様に、市役所内部の政策決定プロセスの在り方に疑問を感じざるを得ない。人事施策とマネジメント手法の再考を。